深く息を吐いた健一さんは胡坐の上に頬杖を付いた。試すようにじっと私の目を見てくる。負けじと見つめ返せば、健一さんの方が先に折れた。
「……何が聞きたいんだっけ」
「まず、私が妖と深く関わることをよく思っていない理由です」
やけくそのように頭をがしがしとかき、もう一度深い溜息をつく。
「先に言っとくけど、三門に直接聞いたわけではないから、全部俺の憶測になるぞ」
「それでもいいです。私が覚えていない五歳までの記憶の中で、何かあったんですよね?」
ああ、と低い声で頷く。
「麻ちゃん、右の太腿にでっかい古傷があるだろ」
え、と目を瞬かせた。
「なんで知って……まさかお風呂っ」
「んなわけあるか阿呆! 俺はボンキュッボンにしか興味ねえよ!」
勢いよくそう噛みつく健一さんに肩を竦める。それはそれで私に失礼じゃないか、とも思ったが小さく謝って話を続けた。
「……昔遊んでいた時に木に引っ掛けてできた傷だって」
健一さんの言う通り、私の右太腿には縦に裂いたような大きな傷がある。今ではそんなに目立たないが、体調によってはたまに痛むときがある。お母さんからは昔遊んでいた時に、木に引っ掛けてできた傷だと聞いた。
「半分は間違いじゃねえ。裏山で三門と麻ちゃんが遊んでいた時にできた傷だ。三門も似たような傷が背中にある」
「三門さんも……?」
健一さんは険しい顔でひとつ頷く。
「────お前ら、妖に襲われたんだよ」

