社へ戻ってくると真っ先に着替えて健一さんの部屋へ向かった。
これまで物置になっていた部屋で、健一さんが来てから急いで綺麗に片付けたのだ。大抵はそこでごろ寝をしているか、ふらりと外に出て翌日の朝に帰ってくることなんていうのもある。
私は部屋の前で声をかけた。
「健一さん、今いいですか」
ういー、と気の抜けた返事が返ってきて、ゆっくりと襖を開ける。やはり畳の上に転がった姿があった。いつもはスマホを弄っているが、今日は珍しく本を開いていた。色褪せた和綴じの本だ。
ちらりと覗くとミミズのような繋がった文字で書かれている。
「何読んでるんですか?」
尋ねながら前に座る。
「んあ? これか? 宝物殿の蔵書だよ。妖のこととか載ってる。麻ちゃんも読んでみろよ、ためになるぞ」
とても興味があるけれど、その前に古典の勉強が必須かな。
苦笑いで頬をかく。
体を起こした健一さんは「どうした?」と首を傾げた。
「この前言ってましたよね。昔のこと、教えてくれるって」
「……やっぱり来たか」

