富岡くんはちがう、と低い声で答える。会話が途切れた。沈黙が痛い。何かを言わなければいけないのに、言葉が出てこず拳を握りしめた。
「……蛍ちゃんは蛍ちゃんだよ」
沈黙を破る芯の通った声が背中から聞こえる。富岡くんの肩がわずかに震えた。
富岡くんの前まで来た雪ちゃんが、迷うことなく富岡くんの手を握った。
「……そんな蛍ちゃんと私は一緒にいたい。私のために、一緒にいてって、わがままかな」
富岡くんが真っ赤な目で雪ちゃんを見上げた。
「あったかいね、蛍ちゃんの手」
「……んな訳ないだろ」
「ううん、あったかい。私を引っ張ってくれる大好きな手。誰よりもあったかい」
富岡くんはその手を強く握り返した。顔をぐしゃぐしゃにして、雪ちゃんの手を額に当てる。大粒の涙が布団の上にぼたぼたと落ちた。
「……っ、本当は寂しい、苦しい。忘れないで、忘れないでっ! 俺のことずっと覚えていてほしい! 一緒に年をとりたい。大人になりたいっ」
うん、うん、と雪ちゃんは黙って相槌を打った。
「まだ富岡蛍助として、ここにいたいよ」
ぼろぼろと涙をこぼした富岡くんは、しゃくりをあげながら言った。

