目が覚めると見知らぬ天井があった。飛び起きると目が回って、また床に逆戻りになる。
「おお、起きたか」
しゃがれた男の声がして、目だけをそちらに動かす。
囲炉裏の傍で草履を編んでいた年老いた男がゆっくりと立ち上がる。男が「ばあさん、ばあさん」と土間に向かって声を張り上げると、「はあい、今行きますよ」と老いた女が現れた。
女は皺だらけの手で蛍雪の頬に触れた。優しい目をした人だった。
「まあ冷たい。湯たんぽをあげましょうね。ご飯は食べられる?」
男はゆっくりと蛍雪の体を起こすと背中に腕を回してて支える。
「なんだ、風で吹き飛びそうなほど軽いじゃないか」
蛍雪は戸惑いながらふたりの顔を交互に見た。ふたりは目じりをしわくちゃにして線のように細い目で笑う。腹の底に心地よい熱が広がった途端、どうしようもなく泣きたくなった。
触れられる頬に、背中に、心地良い熱が広がる。ずっと求めていた“あったかい”がそこにあった。
声をあげて泣いた。ふたりは困ったように蛍雪の背中を擦った。その手が温かくて一層涙が零れた。後悔はしていないはずなのに涙が止まらなかった。

