山間に戻った蛍雪は退屈な日々を過ごしていた。
大好きな六花といるはずなのに、ずっと太吉のことを考えた。“あったかい“が恋しかった。六花の傍では感じない、特別な感覚。人に触れると、人に関わると、胸に”あったかい“が広がる。とても幸せな感覚。それをずっと求めていた。
冬になると人里へ下り、夏にまた山間に帰ってくる。そんな日々を過ごしている中で蛍雪の胸にある思いが芽生えた。蛍雪は十二の夏に、それを六花に打ち明けた。
「兄や、俺、この冬からはひとり人里で暮らす。夏も冬も、ずっと人里で暮らしたい」
「だめだよ」
有無を言わさず断った六花に、蛍雪は声を荒げた。
「なんでだよ!」
「まだ妖の世界のことも、雪童子の体のこともすべて理解していないお前が、ひとりで暮らすことなんてできない」
「言い切れないだろ!」
「言い切れる。蛍雪、この話はもう終いだよ。さあ、床に入って」
いつまでも己のことを子どものように扱う六花が、このごろは窮屈で仕方なかった。

