蛍雪は走って追いかけた。振り返って雪玉を投げてきたので、悲鳴をあげながら反撃した。
「太吉のかーちゃん、熱いのに嫌じゃない」
「あったかい、だろ?」
「あったかい?」
「良い匂いがして、眠たくなって、大好きで、ずっと引っ付いていたい。ちょっと泣きそうになる」
「そう! あったかい!」
あったかい、あったかい。不思議な響きだった。蛍雪は何度も声に出し、胸の中でも唱えた。唱えていると不思議と“あったかい”になっていくような気がした。繰り返していると、“あったかい”と同じように幸せな気持ちになった。ちょっと泣きそうになった。
「太吉もあったかい。でもちょっとくさい」
「いったな!」
べしゃりと顔で雪玉がつぶれた。笑いながら太吉を追いかける。
日が暮れるまで駆け回って、手を繋いで帰路についた。太吉は「お前の手つめたい」と文句を言ったけれど、蛍雪は離すものかと強く握った。太吉の手は温かかった。

