凄い、と目を見開いて壁に飾られている絵を見回した。全て有名な画家が描いたものなのかと思っていたほど、美しい絵だった。風景画や人物画、不思議な図形が組み合わさった絵、レパートリーは数多く、どれも目を惹き付けられる不思議な魅力がある。
「素敵ですね」
そう言いながら、もう一度絵を見渡すと、ふと暖炉の上にある小さな額縁に入れられた絵に目が留まった。
思わず立ち上がって、ゆっくりとその絵に歩み寄る。おばあさんは不思議そうな顔をして私の後ろを付いてきた。
「これ」
空を飛ぶ鳥の絵だった。黒い翼は日の光を浴びて七色に輝いている。長い尾は風を受けているのか枝垂桜のように柔らかな曲線を描いて揺らぐ。大きな目はまるで涙を浮かべているかのように輝いていた。
「……この絵は」
「それは、あら、いつ描いたものだったかしら。ずっとここにすんでいたわけではなかったの。数年前までは京都に住んでいたんだけれど、体を壊してからは養生も兼ねてここへ越してきて。……ああ、そうだ、懐かしい。それは若い頃に書いたものよ。一時こちらへ来ていて。そう、あの森の中で」
心臓がひとつ大きく波打った。おばあさんの顔に“少女”の顔が重なる。
もしかして、ひょっとして────。

