「怪我の具合はどう?」
「あ、もう大丈夫です。そこまでひどくなかったみたいで」
良かった、と目じりを下げた女性に、自然と私も笑みが浮かぶ。
確か賀茂くんはこの人のことを「おおおばさま」と呼んでいた。ということは、この人は賀茂くんの曾祖母に当たる方なんだ。
「さっきは、忠敬のことを庇ってくれてありがとう」
「いや、そんな」
ほとんど勢いで言ったので、お礼を言われると少し居心地が悪かった。
「忠敬は、随分と苦労をしている子なの。誰からも褒めてもらえずに育って、感情を見せなくなってしまって。だから、あの子のあんなに嬉しそうな顔を見れて本当に嬉しいの」
そんなに嬉しそうな顔してたかな、と脳内の記憶に問い合わせてみるも、どの賀茂くんも等しく無表情だった。ひいおばあちゃんだから分かるところがあるのだろうか。
私の気まずさを感じ取ったのか、おばあさんは壁の絵を指さして「私が描いたのよ」と微笑む。
「全部、おばあさんが?」
「ええ、昔からそれだけが楽しみだったの」

