最後にパタンと救急箱を閉じた賀茂くんは、目を伏せたまま口を開いた。
「……俺の術が当たったせいで怪我をさせたのは、悪かったと思ってる。でも、妖は祓うもの、それは何を言われようと変わらない。俺はその目的のためだけに、幼い頃から何もかも捨てて、この道だけを歩いて来た」
初めて見た、賀茂くんの感情のこもった目。強い信念を持った目だった。
私も、私や神社のことを慕ってくれる妖たちのことを信じたい。彼らはいい妖だ。それだけは譲れない。私がそう信じているように、賀茂くんは賀茂くんなりに信じるところがあるのだろう。
でも、それでも、賀茂くんにもそのことを理解してほしいと思うのは私のわがままなんだろうか。
「仕舞ってくる」
そう言って救急箱を抱えて立ち上がった賀茂くんは早足で扉に向かう。扉を開けると、丁度ドアノブに手を伸ばしていた車いすの女性の姿があった。
賀茂くんはドアを支えて彼女が中へ入ったことを確認すると、また早足で出て行った。
「ああ、いいの。座っていて」
女性を手伝おうと腰を浮かせるも、女性はすぐさまそれを制した。慣れた手つきでハンドルを回し私の前に来る。

