その女性とは直ぐに目が合ったが、不自然に目線が低かった。その人は車いすに乗っていた。白髪で、目尻の皺が優しい雰囲気を作る。
「お客様の前ではおよしなさいな」
凛とした明朗な声だった。記憶の隅が何だか騒ぐような感覚が一瞬して、直ぐに消えていく。
その女性は柔らかく微笑む。
「忠敬さん、お友達の手当てをしていらっしゃい」
賀茂くんは一度きゅっと唇を結んでから「はい、おおおばさま」と頭を下げて私の手首を掴んだ。すたすたと部屋を横切る。扉の前まで来て、私は咄嗟に振り返った。
「か、賀茂くんは凄いと思います……ッ」
勢いで出た言葉だった。
お父さんの目がわずかに見開かれる。車いすの女性はまるで好奇心旺盛な子どものように目を輝かせて微笑んでいた。

