屋敷の外装と同じく、中も西洋風の造りだった。壁にはたくさんの絵が飾られていて、廊下にはすべて汚れのないワイン色のカーペットが敷き詰められている。品のあるアンティークの調度品は光がなくとも光りそうなほど手入れが行き届いていた。
向かいの廊下から、中年くらいのふくよかな女性が歩いて来た。エプロンで手を吹きながら、にこやかな笑みで歩み寄ってくる。
「おかえりなさいませ、忠敬さん。お客様でしょうか」
柔らかな物言いに警戒心が少し溶ける。私と目が合った女性はにっこりと笑みを浮かべて一つ頭を下げた。つられるように軽く頭を下げる。
「怪我人だ。手当の用意を」
「かしこまりました。お部屋でお待ちください、直ぐにお持ちいたします。……それと忠敬さん、お父さまがお見えです」
賀茂くんはワンテンポ遅れて「分かった」とだけ言った。眉間に少しだけ皺が寄っている。
部屋の一室に案内されて、ソファーに座るように目で促された。
「あの、ここは」
「……曾祖母の家。下宿している。あの場からはここが近かった」
無視されるかと思ったが、返事が返ってきて少しだけほっとする。

