見えなくなった葵の背中がやっと見えてきたかと思うと、他にも二つの人影があった。駆け寄ると、葵が化け猫の子どもを背で庇うようにして立っている。桃色の着物を着ているその女の子は、社でも何度か遊んだことがある。
「葵!」
声をかけると女の子が私に気が付き両手を広げながら走ってくる。
「巫女さまーッ」
手を広げて抱きとめると、私の首に顔を埋めて火が付いたようにわっと泣き出した。二の腕に鋭いもので切り裂かれたような傷を負っていた。背中を撫でて落ち着かせる。
眉間に皺を寄せながら顔をあげる。
「────賀茂くん」
冷ややかな目と目が合った。女の子を抱き寄せる手に自然と力が入る。
「巫女さま、いたい」
腕の中からそんな声が聞こえて慌てて力を弱めた。
「ごめんね、少し辛抱してね」
ポケットからハンカチを取り出してそれで傷口を縛った。顔を顰める女の子の頭を優しくなでる。
「何をしている。それから離れろ」
淡々とした声にかっと頭に血が上った。
「賀茂くんがこの子に、怪我させたの」
「だったらなんだ」
彼は煩わしそうに溜息を吐いた。何の感情も籠っていない目がこちらを見据えている。

