ふんふん、と鼻息荒く私から距離を取った葵。その姿に思わずくすくすと笑い声を漏らした。最近、葵と話していると「妹がいたらこんな感じなのかなあ」なんて思うときがある。
遠くまで走って行った葵は「見てるかーッ」と叫んだ。返事の代わりに大きく手を振り返す。
「危ないから動くなよーッ」
「……え? 危ない? 葵、一体なにを」
そう呟いた瞬間、葵がこちらに向かって勢いよく両手を突き出した。
風が目に見えたのは、生まれて初めてだった。確かに巨大ななにかの塊が、ものすごい速さでこちらに進んできている。
飛行機が離陸するときのような轟音が耳の横を通り過ぎたかと思うと、二・三メートル離れた所に立っていた木が一瞬にして折れた。枝が数本、なんていうレベルではない。幹の一番太い所からぼっきり真っ二つになっていたのだ。
あんぐり目を開けたまま真っ二つになった幹を茫然と見つめる。足取り軽く駆け寄ってきた葵は「どうだ凄いだろ!」と大袈裟に胸を張って見せた。

