そう言えば、三門さんが祝詞を奏上するときの声は、たしかに優しい声だった。子守唄を歌うような、清らかで温かい声だ。
「……だから、私が祝詞を唱えるとき、優しい声でって」
三門さんは一つ頷いた。
「いつも自分が人と話しているときの声色が言祝ぎと呪が等しく保たれた状態になるんだ。だから普段から高い声や低い声を心掛けてみて」
そう言った三門さんに首を傾げた。
低い声が呪の要素を強める原因になるのならば、低い声を心掛ける必要はないのではないだろうか。災いに転じてしまうかもしれないのに、わざわざ呪の要素を扱う練習をするのはなぜだろう。
私が疑問に思っていることが分かったのか、三門さんは言葉を続けた。
「祝福をもたらす祝詞だけじゃ、皆を守り導くことができないんだ。時には『呪』の要素を強めて、祝詞を唱えることもある」
少し寂しそうに、三門さんは伏し目がちにそう言う。
どういう意味なのかあまりよく分からずにいると、「麻ちゃんはまだ『言祝ぎ』を意識するだけでいいよ」と笑った。

