「ねえ、貴方。名前はないの? こんなにも素敵な羽を持っているんだから、誰かが貴方にうんと素敵な名前を授けたりしなかったのかしら」
幾日が過ぎただろうか。少女のスケッチブックには少しずつ鮮やかな色が乗せられていた。
以津真天はいつも通り、返事をすることなく翼に顔を埋めた。少女はおかしそうにころころと笑う。
「もしも持っていないのならば、私が授けてもいい? こんなにも仲良くなったんだもの。ずっと“貴方”なんて寂しい」
勝手にすればよい、とでも言いたげに少女を一瞥し、その大きな羽をはためかせ、鳥は空高く舞い上がった。空の高い所も、木のわずかな隙間でさえも彼は自在に飛び回る。少女は惚れ惚れとそれを見つめていた。
「木の陰を縫うように、自由に高く飛び回る。貴方の名前は……そう、“かげぬい”」
流れ星に当たったような衝撃が走った。まるで翼をもう一本授けられたかのように、風が体を押し上げるかのように体が軽い。
羽の一本一本から喜びがあふれ出すような心地さえも感じられる。胸が高鳴り、柔らかな熱が体を包み込む。この世のすべての幸福を詰め合わせた、満ち足りた心地だった。

