少女は毎日現れた。現れてはスケッチブックを開き、少し筆を進めはては以津真天に語りかける。以津真天は相変わらず、少女に声をかけることはなかった。けれども気が付けば少女に近い枝にとまって、少女の話を聞いていた。
関わる気なんてなかった。どうでもよいはずだった。けれど明け方に帰る場所は、自然とこの木になっていた。
少女が返った黄昏時。以津真天が休む木の下に、気が付けば人影があった。
「────以津真天の旦那。妙なものに付きまとわれているようですな」
ぼろぼろの袈裟を身に着け僧侶のような姿をした妖がいる。深く笠をかぶり直し静かにそう尋ねる。以津真天は翼に埋めていた顔をあげて、少し目を見開く。
「……野寺坊《のでらぼう》か。久しい顔だな」
野寺坊と呼ばれたその妖は黙ったまま俯くようにひとつ頷く。
「物好きな娘だよ」
翼を広げ枝から飛び降りた。宙で旋回し野寺坊の隣に着地するころには、着流しを身に着けた壮年の男の姿に化けていた。

