様子を窺っていたすねこすりや豆狸、おとら狐が、少女のまわりに集まり始める。少女は怖がるそぶりもなく、優しい顔で手を差しだした。
「ここは妖が多いのね」
『お嬢さんはおもてら町のことをご存じないか』
「えっ、あなた話せるの?」
『おかしなことを申される。人間が喋るのだから、妖だって喋りましょうぞ』
少し気取った顔をした猫又が、ひげをぴんと立ててそう言った。
『おもてら町はユマツヅミさまがおわします結守の社の御膝元、人と妖がともに暮らす町』
「ユマツヅミさま……確かこの森の麓に神社があるとか」
『私たちをお守りくださる。この町も幾度も戦火を受けたが、我々の森は守られた』
少女は言葉を詰まらせた。確かに少女のいた都心の方には、もう緑と言えば畑の南瓜の蔦くらいしか見当たらない。見渡す限りの焼け野原、道に生える雑草でさえも生気のない枯れ果てた色だった。
この森はまだ生きている。肉付きの良い葉が青々と茂り、生き物が暮らしている。
『お前もここに居ればよろしかろう』
『そうだ。お前ならいても良い。人の子と話すのは楽しい』
「でも私、怪我が癒えたら帰らなくちゃいけないの」
少女は家族のことを思った。

