「おっといけねえ、用事があるんだった。坊ちゃんに手水舎の修繕を頼まれてんだ!」
また太腿を叩いた弥太郎は弾みをつけて立ち上がる。
「ありがとな、お嬢さん!」
にっと歯を見せて笑った弥太郎は勢いよく風呂場から出ていくと、なぜか「うおおお」と雄たけびをあげながら廊下を走って行った。
呆気にとられながらそれを見ていると、耳の傍で「ひひひっ」と悪戯に笑う声が聞こえた。ばっと肩に手を伸ばすと、柔らかい小さな何かを掴んだ。顔の前でゆっくり手を開けると、家鳴が手足をばたばたさせながら掌の上で笑い転げていた。
『傑作でしょう? 褒めて褒めて』とでも言いたげに、クリクリの目で私を見上げる。思わず反対の手で額を押さえ深い息を吐いた。
「……三門さんにばれたら、ただ事じゃ済まないよ?」
天井の隙間や棚の壁からぞろぞろと現れた家鳴たちは私を取り囲んで「ひひひ」と笑う。三門さんも大変だな、と遠い目をした。

