「いやあ、驚かせてすまねえ。えれぇ助かりやした。悪かったな」
その男は、かっかっか、と大口を開けて笑った。
どうしたらそうなるのか分からないほど複雑に結ばれ天井からつるされていた縄を解き、男を救出したばかりだ。脱衣所で脱力したように胡坐をかいて座るその男は息を吐く。
改めて男をよく見た。ねじり鉢巻きに半纏、股引と丈の短い袴の姿は、春休みにババと一緒に見た時代劇の火消しを彷彿させる。昔の消防士さんだ。
「あの、どうしてあんなことに……? 貴方は誰ですか?」
「おいおいおい、質問は一つずつってのが常識だろうよ」
乱れた髪を慣れた手つきでちょんまげに結い上げていく男がそう言う。咄嗟に謝れば、今度は「ほいほい謝るんじゃねえ」と言われる。
丁髷に結い終えた男は、自分の太腿をパンと叩くと、勢いをつけて立ち上がった。
「粋な“かまわぬ”の袖はためかせ、燃ゆるお江戸を駆け抜ける! 火消しの弥太郎とは、ヨッ! 俺のことでいっ」

