「あくまでも諸説ありだから、恐がらなくてもいいよ。かげぬいはいい妖だし」
ほっと息を吐く。きり終わったねぎを三門さんに託して、食器棚から茶碗を出した。
「あ、大皿もだしてくれる? 金目鯛の煮つけ貰ったんだ」
「はい。おおざら、おおざら……」
ふと先ほど出会ったばかりの妖の顔が脳裏に浮かぶ。おおざらと似たような名前だったから、思い出したのかもしれない。たしか、うんと首を捻ってみるが、始めの文字が“お”で、末尾に“狐”がついたことしか思い出せない。
おおざら狐は絶対に違うし、何だったか。
「三門さん、“お”から始まって“狐”で終わる妖ってなんでしたっけ……?」
「おとら狐のことかな?」
大皿を差し出しながら「ああ!」と声をあげる。
そうだ、おとら狐。おとら狐の仁吉だ。
「さっき、おとら狐の仁吉っていう妖に会ったんです」
三門さんは急に動きを止めた。不思議に思って名前を呼ぶと、ゆっくり振り返って「おとら狐の仁吉に会ったの?」と尋ねる。ひとつ頷く。

