ひとつ大きな欠伸をしたみくりの後ろを歩きながら、私は夕日を見上げた。赤い光が心地よくて、ほっと息を吐く。
「おい小娘。この借りは“みいと村松”の稲荷コロッケ百個で手を打ってやるぞ」
「やだよっ。返しの方がはるかに多いじゃん!」
「神使を使ったんだぞ、それくらいはして当然だ」
ふふん、と鼻を鳴らしたみくりは尻尾を揺らしながら軽やかな足取りで歩いていく。
あきれ気味に肩を竦めてその背中を追いかける。ふと、ふくりがついてきていないことに気が付いた。足を止めて振り返ると、随分と後ろの方をゆっくりと歩いている姿が見える。何度か名前を呼んでみたけれど、それでもふくりは気が付かない。
さっさと歩いていってしまったみくりをちらりと一瞥してから、来た道を戻った。
「ふくり、ふくり」
ふくりの目の前にしゃがみ込んで声をかけた。しかしどこか遠い目で地面を見つめるふくり。そのまま声に気が付かず、私の膝にぽすっと突撃した。
弾けるように飛び退いたふくりは目を瞬かせながら私を見上げた。
「どうしたんだい、麻」
「それは私のセリフだよ。ふくり、何回呼んでも気が付かないんだもん。何か気になることでもあるの?」
ふくりは少し目をそらして「何もないよ、ごめんね」と首を振る。だから私はふくりの目をじっと見つめてから「そっか」と笑った。
きっと今は誰にも言いたくないことなんだろう。無理に聞き出そうとすれば、もっと口を閉ざしてしまうに違いない。
視線を落としてとぼとぼと歩くふくりを後ろから抱き上げた。うわあっ、と素っ頓狂な声をあげたふくりに小さく吹き出す。ぎゅうっと力を込めて抱きしめてから、駆け足で山を降りた。

