「そう、三門さんにね、軟膏を届けるように頼まれているの」
「軟膏? ああ、なんだ。あれは届け物だったんだね」
よっこらしょ、と腰を浮かせたババは小上がりの真ん中に置いてある机の上から何かを取って、私の前まで戻ってくる。
差し出した掌に、十字に紐で縛られた白い二枚貝の貝殻が乗せられる。
「貝の中に軟膏が入ってるよ」
そう言われて鼻を寄せると、ほのかに薬草のツンとする匂いがした。
「三門さんが、ふくりかみくりを連れて行けって」
「私はいかんぞ!」
いつの間にか休戦して毛繕いをしていたみくりが即答する。
「いいよ、麻。私と行こう。こんな分からず屋頑固狐なんて放っておけばいいんだよ」
「何だと貴様!」
ふーっと毛を逆立てたみくりの頭にババの拳骨が落ちる。「いい加減におし!」と目を吊り上がらせて歯をむき出しにしたババに、私たちはひっと息を飲んだ。すっかり忘れていたがババも妖、それも山姥と呼ばれる、泣く子も黙るほど恐ろしい顔をする妖だ。
貝をポケットにねじ込むと、すっかり固まってしまった二匹を抱きかかえ社務所を飛び出した。

