「久しいのお。麻よ、顔を出すのが遅いぞ。待ちくたびれておったわ」
端正な顔立ちをしたその男は、細い目をさらに細くして笑う。
藤色の狩衣に、結守神社の社紋が薄く描かれた白い袴。三日月のように大きく反った長い刀を腰に差すその男は、よく知っていた。
「円禾丸《まどかまる》!」
結守神社の御神刀、円禾丸だ。
傍まで駆け寄ると、円禾丸は私の頬を両手でつまむ。
「この頬も実に久しい」
円禾丸は私の頬を伸ばしたりこねくり回して堪能しているようだ。
「……それ、初めて会った時もしてた」
一通り楽しんだのか、手を離した円禾丸は満足げに微笑む。少しヒリヒリ痛む頬を押さえながら唇を尖らせる。ふと、室内の奥に誰かの気配を感じてハッと我に返った。
「誰かいるよね?」
「ああ、迷い込んだらしいが、害はないと分かっておったから、話し相手になって貰ったんじゃ。おうい、爺さん、爺さん」
円禾丸は振り返って声を張り上げる。棚の陰に隠れていた誰かがゆっくりと立ち上がり顔を覗かせた。

