蒼司「知らん。」
はあ!?
驚きすぎて声も出ない、と言うのはこういうことを言うのだろう。
何故この人は“知らん”と答えるんだ。
自分がやり取りしている相手を知らない、なんておかしな話でしかないだろう。
『な、なにを…』
ぎりぎり絞り出すことに成功した声を出し、彼にそう問い掛けると…彼は本当に分からないのか、首を傾げることしかしない。
蒼司「俺自身、何故あのように得体の知れないものの言葉を信じ行動しなければいけないか分かっていないのだ。だが、俺の力や…それを考えると、奴の言っていることが嫌なくらいに辻褄が合う。だからそれを信じるしか、他に存在することが出来なかったのだ。」
『…あの?』
蒼司「人間は何もなく生きていられるかもしれない…だが、俺達人外…それも俺のような存在は、そこまで簡単なものではない…。」
…その言葉に、重い何かが心にのしかかるような感覚がする。
僕は、僕達は、ちょっとした何かで存在価値が分からなくなり、悩み、病む。
でも…彼ら人外はそれに悩む暇もなく…“何か”決まりがあって、それを守らなければ存在することが出来ないのだろう。
それを考えると…なんて生き方をして来たのだろう、と自分が嫌になってしまう。
蒼司「…そんな顔をするな、大昔から俺達のような存在にはそれが決まり…仕方がないことなんだ。」
『…でも、ごめんなさい。』
蒼司「あんたが謝ることではない…それに、あんたは何も悪くないだろう。今それを聞いたところでどうしようもないだろうし…わざわざ話して悪かったな。」
…僕に意地悪をして来たりするこの人だけど、それはとても珍しいことだったのかもしれない。
彼が何かをするのが珍しい…とかではなく。
…彼自身が、誰かとともに居ることが、何か行動をすることが、彼にとって珍しい…新たな経験だった。
そう思うと…あまり文句言うのはいけないかもしれないな、と思う。
あの世界移動方法だけは許せないけどね…!!
なんてことを頭に浮かべながら、これからはもう少し彼に優しくしようと思った。
…もう少し優しくして、変な話だが…これからは、彼に“思い出”を作ってあげたい。
“今まで何があったかは知らないけど、私には関係ないから。これからを一緒に作ってこ?”
…最愛の友人であるあの子が、僕にそうしてくれたように。