「あと、もう1つ。お願いだから・・・呼び方、元に戻して。」


「えっ?」


「『成川』って呼ぶの、勘弁して欲しい。」


実は、今日会ってから、ずっと困惑していたことを訴える。


「確かに、最初はあなたからそう呼ばれてたし、離婚したから今まで通りじゃいけないと思ってくれたんだろうけど、違和感あり過ぎ。」


「そうか?」


「さっき、冗談半分であなたのこと『先輩』って呼んだけど、46歳のオバさんが気持ち悪いって、自分で背筋が寒くなった。だから・・・今まで通り『朱美』でお願いします。」


「いや、改めて交際を申し込むにあたってのケジメのつもりだったんだよ。だけど、とりあえず付き合うことになったんだから、これからはまた、遠慮なく名前呼びにさせてもらうよ。」


「うん。」


そう言って、笑い合う私達。


「ありがとうな。」


「えっ?」


「さっきも言ったけど、図々しいと思うよ。けんもほろろに断られても、仕方ないと覚悟もしてた。だけど、俺は離婚届にサインしたその時から、君をもう1度口説こうって決めてたから。」


「隆司さん・・・。」


「君がそんな俺の勝手な思いを受け入れてくれたことに、素直に感謝してる。だけど・・・これは新たなスタートの第一歩に過ぎないってことも、わかってるつもりだ。復縁なんて、言葉で言うほど簡単じゃない。そんな安直にまた、くっつけるくらいなら、俺達は最初から別れてない。」


「そうだよね。」


「だから、時間はいくら掛かってもいい。絶対に安易に流されないようにしよう。そんなふうに出した結論なんて、何の価値もない。きっと、また破綻するよ。」


「わかってる、覚悟は出来てる。だから、あなたの告白を受け入れたんだもの。」


私は力強く、そう言った。


「よし、今からもう1度スタートだ。よろしくな、朱美。」


「こちらこそ、隆司さん。」


こう言って、私達は笑顔を交わし合った。