「わかってる。別れてから1ヶ月やそこらで、何ふざけたこと言ってるんだって、君が思うのは当然だと思う。だけど、正直言って、俺は1ヶ月も待ったんだ。」


「隆司さん・・・。」


「離婚する時、俺は嘘をついた。あの1週間の別居の時、俺の出した結論は『別れたくない。あいつとはやっぱり別れられない。』だったんだ。」


「・・・。」


「そして、何の根拠もないのに、君も同じ結論に達して帰って来るって、信じて疑わなかった。だけど、君の答えは『別れよう』だった。」


隆司さんの言葉は続く。


「正直ショックだった、まさかと思ったよ。とりあえず、心の整理がつかなくて、結論を1日先延ばしにしてもらった。そして考えたことは、俺はそこまで君を傷つけることをしてしまったんだっていう今更の後悔だった。そしてもう1つ思ったのは、俺は君に何を求めてるんだろう?ひょっとしたら、家政婦として君を手放したくないだけなんじゃないかって。」


そう言って、一瞬下を向いた隆司さんは


「だとしたら、そんな失礼なことはない。自分で自分の気持ちがわからなくなって、これは、もうダメだな、そう観念して、俺は離婚に同意した。1度ケジメをつけて、君と離れて、冷静に考えようって。」


「・・・。」


「1ヶ月、長かったよ、俺には。君のいない家、君の声が聞こえない時間。俺は1人じゃなかった、清司が家にいたから。でも息子は・・・君がいて、俺と君が愛し合ってたからこその存在。君がいない家庭なんて、何の意味もないとまでは言わないけど、でも俺には耐えられなかった。」


「・・・。」


「その大切なものを、俺は自分でぶち壊した。俺は今回のことは、俺の有責だと思ってる。前にも言ったけど、俺が君を裏切らなければ、せめて、俺の目を覚まさせてくれた君の愛を、その後もちゃんと受け止めて続けていれば、君をあんなことをするところまで、追い込むことはなかった。本当に済まなかった。」


そう言うと、隆司さんは私に向かって、深々と頭を下げた。