春希と会って、いろいろ考えさせられることもあったし、胸につかえてた物を吐き出せて、すっきりした面もあった。


やっぱり人と話すことって大切なんだなぁと改めて感じさせられた。


そして、これがきっかけになったように、いろんな人とのコミュニケーションが復活して来た。


ある程度、いろんなことがさらけ出せた学生時代の友人と違って、ご近所だった人やママ友、スーパー時代の友人との接触は、正直こちらも避けて来た。


でもご近所には、あの家から私の姿が消えたことはもうモロバレだろうし、引っ越しのトラックが、家の前に停まっていたのを見られてる人もいるはず。ママ友やスーパー時代の友人も不自然に連絡が途絶えて、不審に思ってるだろう。


報告して回るつもりは、もちろんないけど、逃げ回ってても仕方がない。そう吹っ切れたのは、やっぱり春希の言葉が大きなきっかけになったのは間違いない。


家と職場の往復だけの生活が、徐々に変化を見せ、気が付けば、1人暮らしを始めてから、かれこれひと月が過ぎようとしていた。


今日は土曜日。午前中の来店客の波が一段落して、乱れた商品をたたみ直している時だった。


「母さん。」


と呼び掛けられて、振り返ると、そこに立ってたのは


「正司。」


長男だった。相変わらず、定期的に泊まりに来る次男と違い、もともと別居していたということもあるけど、離婚騒動やそのあとも何度か電話やメールでやり取りしただけで、顔を見たのは、それこそお正月に帰って来て以来だ。


「忙しそうじゃん。」


「お陰さまで。珍しいね、どうしたの?」


「昨日実家に泊まったんだ。」


「そうなの?」


「今日これから地元の友達と会う約束してんで。それで久しぶりに母さんの顔も見ていこうと思って。」


「そっか。」


そんな会話を交わしながら、私は時計に目をやった。


「急ぐの?」


「いや、待ち合わせ、このモールの中だし、時間もまだある。」


「じゃ、ちょっと待ってて。もう少しで昼休憩なんだ。」


「そうなんだ。じゃ、店の外で待ってるよ。」


「うん。」


そう言って、出て行く長男の後ろ姿を見送ると、私は商品整理の手を速めた。