食事が済むと、次男は自室に引き上げて行った。後片付けを済ませ、あとは夫の帰りを待つばかりなのだが、やはり落ち着かない。


と言って、テレビを点ける気にもならず、私は、時計とにらめっこしながら、夫を待つ。


そう言えば、今夜なぜ、夫は夕食を家で摂らなかったのだろうか?仕事、とは思えない。そうなら、そう言う人だ。


まさか・・・なんてことは、さすがに思わなかったが、何か釈然としない気持ちが湧き上がる。


カチャリ、鍵を開ける音がして、夫が帰宅して来たのは、10時を過ぎていた。


「お帰りなさい。」


私は少し慌てて、ダイニングで彼を迎える。
 

「ただいま、遅くなって悪かった。」


そう言って頭を下げる夫。


「お茶、煎れるね。」


そう言って、立ち上がろうとする私に


「いや、いい。」


と制止する夫、一瞬見つめ合った私達。


「座ってくれないか。」


「はい。」


いよいよ、この時が来たんだ。私は緊張して、座り直す。


「プロポーズの時以来、かな?」


「えっ?」


「朱美と話すのに、こんなに緊張するの。」


「・・・。」


そんな夫の言葉に、なんと返したらいいかわからなくて、ただ彼の顔を見つめてしまう。


「言ったことは、『朱美のことを心から愛してます。一生大切にして、必ず幸せにします。だから・・・俺と結婚して下さい。』だった。随分いろいろ頭を悩ませて、考えてたんだけど、結局は平凡でありきたりなセリフになっちゃって・・・。でもそんな俺の言葉に、『はい。』って朱美が頷いてくれた時、とにかく嬉しかった。あの時のことは忘れない、天にも昇るような気持ちで、なんか天下でも取ったかのように気持ちが高揚したのを覚えてる。」


「隆司さん・・・。」


「あの時は、自分がとんでもない嘘つきだなんて、気付くことが、出来なかったから、な・・・。」


そう言って、寂しそうな表情で俯いた夫を、私は息を呑んで見た。