21歳で結婚して、実家を出てから、もちろん帰省することはあっても、子供も連れず、1人で実家に寝泊まりするなんてほとんどなかった。


私が嫁いだ時は、まだ若かった両親も父は70を超え、母も間もなく70の声を聞く年齢になった。


私のきょうだいも、みな独立し、穏やかに暮らしていた両親にしてみれば、46歳にもなった娘が、ひょっとしたら出戻って来るかもしれないなんて事態になってるとは、当然想像だにしてないだろう。


とは言え、何かあったんだろうとは察してはいたには違いないが、それでも、あまり煩いことを言わずに、迎え入れてくれたのは、ありがたかった。


実家に戻って最初の朝、目が覚めたら10時近かった。家にいれば、あり得ない起床時間で、慌てて跳ね起きて、居間に降りて行ったが、すでに両親は朝食を済ませ、父は近所の友人と地域の碁会所に出掛けたと言う。


頭を下げる私に


「よく寝てたからね、疲れてたんでしょ。」


と穏やかに母が言いながら、食卓に朝食を並べてくれる。この騒動が起こってから、確かに眠れない日々が続いていた。でも昨日は、久しぶりによく寝られた気がする。実家に帰って来て、少し精神的に落ち着けたのだろうか。


久しぶりに食べた母の作った朝食は、やっぱり「おふくろの味」だった。さすがに後片付けは自分でやり、なんとなくまったりしていると、昼過ぎに父が帰って来た。


昼間に父がいる光景にふと違和感を感じている自分に気付く。そう、私が学生時代、父が平日の昼間に家にいるなんて、考えられなかった。


あの時代、男性が働きバチと揶揄されながら、家庭を顧みないで、がむしゃらに仕事をするのは当たり前だった。


そして女性は、そんな夫を支え、子供を育て、家庭を守ることを当然のように求められた時代だった。


そんな両親の姿を見て育った私は、あの当時の夫の姿を何の疑問もなく、受け入れていた。父の世代はそんな言葉すら知らなかったであろう「家族サービス」も夫は時間を見つけて、してくれていた。


それだけに、あの当時の夫が不倫をしてたというのが、実はまだ信じられない思いなのだ。


あの頃の夫の勤務実態の凄まじさは、残業代、出張手当、休日出勤手当、全て妻として、この目で確認している。


あの時期だったから、不倫を紛れ込ませるのは難しくなかった。と夫は言った。そのタフさに呆れ半分、ある意味、感心半分。


あの頃の私は寂しさを全く感じなかったと言ったら嘘になる。でも、夫を信じ、感謝していたし、子育てと家事で私も精一杯だったんだ。それだけに裏切られていたという現実が、15年も前の話だというのに、私の心を苦しめ、夫を許せなくなる。