まるで砂を噛むような、まさにそんな表現がピッタリの夕食を食べ終え、私は後片付けに、キッチンに立つ。それが終わるまで、夫はナイター中継を見ているが、いつものように試合経過に一喜一憂することはなく、たぶんボンヤリ眺めてるだけなんだろう。


そして、私が再びダイニングに戻って来て、夫の前に座ると、夫はテレビを消し、改めて座り直す。


沈黙が流れる、何か言わなきゃならないことはわかっている。こうやって向かい合った時、まず何を言おうか、お互いずっと考えて来たはずなのに、言葉を発することが出来ない。


どのくらいの時間が流れたのだろう。ようやく掠れたような声を上げたのは、夫だった。


「それで・・・朱美はどうしたい?」


いきなりそう聞かれて、驚いたけど、でも経緯も話し、お互いに謝罪はし合った以上、話すことは今後どうするか、どうしたいかしかないよね。


「正直言って、わからないよ。あなたを許せないって気持ちは、昨日も言った通り。でもそれで、自分が仕出かしたことがチャラになったとか、あなたに対する罪悪感がなくなったなんてことは全然ない。あなたのことが好きか嫌いかと言われれば、たぶんまだ好きだよ。でも、じゃ全てをなかったことに・・・なんて、やっぱり出来ないよ。」


正直な今の自分の気持ちを、私は夫に訴えた。


「そっか、そうだよな。」


「で、あなたは?あなたはどうしたいの?」


当然、そう反問する私に対して


「男って卑怯だよな。自分が散々裏切っといて、やりたいことやってて、バレなかったのをいいことに15 年もとぼけてて・・・。でもいざ自分が同じことされてたってわかったら、自分の妻が他の男に身体開いてたなんて・・・許せないんだよ!自分の妻は貞淑で、自分だけを見てるのが当たり前で、裏切るなんてあり得ないって思うんだよ。」


悲しそうな顔をして言う夫。


「じゃ、私のこと、汚らわしいって思ってるんだ。」


私がそう聞くと、一瞬躊躇ったけど、頷く夫。


「じゃ、もうどうしようもないよね!」


心の中にこみ上げる悲しみ、私は開き直ったように強い口調で、そう言ってしまった。