翌朝、私が下に降りて行った時、既に夫の姿はなかった。25年になろうとしている結婚生活の中で、体調が悪い時も、ケンカして口もきかなかった時も、心が夫になかった時期もあった。だけど、夫を朝、送り出す為の家事を完全に放棄してしまったのは、初めてだった。


そう言えば、次男は昨日、どこで泊まったのだろう。ちゃんと会社、行ったのかな・・・?


この2日間で、私達に起こったことは何だったのだろう。夢なら早く覚めて欲しい。だけど、覚めるはずがない。少なくとも私が夫を裏切った事実は、この心と身体が、嫌というほど覚えている。


あの頃の夫がまさか、私の目を欺いて、不倫をしていたなんて、想像も出来なかった。あの頃の夫は、私達家族の為に、身を粉にして日夜働いてくれてる。そう信じて疑わなかった。


そんな夫に、私は感謝し、尽くし、家庭を精一杯守って来たつもりだ。だけど、夫はそんな私の愛と信頼を笑顔で受け止めながら、その裏で、他の女を抱いていた。


そして、それが壊れると、何食わぬ顔で、家庭に舞い戻って来た。以来15年間も私を騙して来た。それを知った時、私の中で、ガタガタと何かが崩れ落ちた。


許せない、昨日夫に言った通り、これが今の私の偽らざる気持ち。だけど・・・私に一方的に夫を責め、憎む資格があるの?


夫は1年半、私は3ヶ月の不倫。その後、夫は15年、私は4年、パートナーを騙し続けた。期間の違いはあれど、お互い様。そう言って、笑って水に流せばいいの?


食欲なんか全くない。だけど、何か口にしなきゃ、身体が保たない。懸命に自分を奮い立たせて、私は自分の為に、雑炊を作った。


料理は好きで、自分でも得意なつもり。だけど、今食べてる雑炊、何の味もしないのはなんで?


「朱美の料理が一番だよ。」


隆司さん、そう言って、私の料理、美味しそうに食べてくれてたよね。あの笑顔は嘘だったの?


隆司さんにそう言ってもらった時、幸せを感じてたよね。なのに、なんで私・・・。


涙がまた、溢れて来る。