この時期の俺の生活は本当にハードだった。仕事は目の回るような忙しさだった。だけど、毎日長時間残業だったわけじゃないし、毎週土日出勤だったわけでもない。


だから、そんな生活の中に、妻になんの疑念も抱かせないで、不倫を紛れ込ませることは、実は難しいことではなかった。


俺は仕事はバリバリこなし、その一方で穂乃果との逢瀬を楽しんだ。間違っても会社の連中に目撃されるようなヘマはしないよう、会うのはオフィスから何駅も離れた場所を選び、土日出勤と称して、デートや時には温泉旅行にも行った。


穂乃果とは身体を重ね合ってる男女特有の信頼感、安心感を築き上げ、それが仕事にもプラスに働いていた。


そして、俺は家族を、妻を愛することも決して忘れてはいなかった。


それは、不倫をカモフラージュしたり、罪滅ぼしの為ではない。穂乃果には悪いが、俺の力の源は、妻であり、家族である。心も身体も全て俺に委ね、全身全霊で俺を愛してくれてる妻が、可愛くないはずがなかった。


俺は誰にも自慢出来る妻を娶り、最愛の家族に恵まれ、仕事でも自分で言うのも何だが、着々と成果を上げ、更に可憐な愛人まで手に入れていた。


男として、俺は究極の勝ち組だ。この頃の俺は、本気でそんなことを思っていた。


若かったし、とんでもない思い上がりだった。愚かだった、今は我ながら、そうとしか思えない。