「どういうことなんだ、説明してくれないか?」


呆然とする自分の心を励まして、俺は妻に問いかける。


「4年前、私はあなたという大切な夫がありながら、他の男にこの身を委ねました。それどころか、その男に溺れ、あなたと離婚しようとまで思いました。心も身体もあなたを裏切ったんです。申し訳ございません!」


土下座したまま、涙ながらに言う妻の言葉が、右から左へ通り過ぎて行く。魂が抜け落ちたように立ち尽くす俺の耳に、更に容赦なく妻の懺悔の言葉が飛び込んで来る。


「あの日、男の胸で離婚を誓い、私は家に戻りました。そして、あなたに離婚を切り出そうとした時に、あなたが思いもよらない言葉を私にくれたんです。それはまるで、第二のプロポーズの言葉のように、私の胸に響きました。」


そうか、あの日のことか。俺は思い当たった。そう、あの頃の俺達は倦怠期というか、とにかく会話がなくなっていた。1つ屋根の下で暮らしてるというのに、お互いへの関心を失ってしまったようになっていた。


一緒にいるのを当たり前のように思い、長く一緒にいるんだから、今更言葉なんていらないし、照れ臭い。そんな感じになっていた。


だけど、俺はある日、気が付いた。いや、ある友人の言葉でハッとした。その友人は、俺達夫婦と同じような状況になり、心が離れ、離婚した。そんなつもりじゃなかった、そう気付いた時には、もう手遅れだったと悔いる友人を見た時、俺は大袈裟じゃなく、背筋が凍るような思いがした。


俺は急いで家に帰った。だけど照れと意地が邪魔して、なかなか言い出せないまま数日を過ごし、ついに意を決して、帰って来た妻を玄関まで出迎えたのが、あの日だった。


「嬉しかったです。そしてあなたからの愛情と、あなたへの愛情を見失ってしまっていた自分を死ぬほど後悔しました。そして、私は結局、あなたの胸に飛び込みました。私が本当に愛してる人は、あなた1人だと改めて気付いたからです。」


ここで妻はようやく、顔を上げた。