私は応答することが出来ずに立ち尽くす。だけど外で


「朱美、いるんだろ?開けろ、開けてくれ!朱美!」


と叫び、ドアを叩く内藤の姿がモニターに映し出され、その声がキッチンに響く。


その音に、ハッと我に返った私は急いで、玄関に走る。


「お願いです、止めて下さい。」


そう言いながら、ドアを開けてしまうと、内藤が入り込んで来る。この男を家の中に入れて、いいことなど1つもないことは、分かり切ってはいたけど、近所の手前もあり、どうしようもなかった。


「なんで、こんなことをするんですか!」


私は思わず怒鳴る。今の状況の悪さが、私に冷静さを失わせていた。こんなところに、家族が帰って来たら、取り返しのつかないことになる。


「すまん。」


と言う男に構わず、私は叫ぶように言う。


「今更、私に何の用があるんですか?もうお話することは何もないはずです。お金だって、もうあれ以上は無理だって言ったはずです。それなのに、なぜ・・・。お願いです、帰って下さい、もう私を苦しめないで・・・。」


とうとう出てしまった本音、目の前の男だけが悪いわけではない。理屈ではわかっている、だけど、私はそう言わずにはいられなかった。


果たして、私のその言葉に、男は一瞬目を伏せたけど、すぐにカッと目を見開くように私を見ると


「わかってる。」


と絞り出すような声で言った。


「わかってるよ。俺とのことが朱美をどんなに苦しめてるか、俺の存在が朱美にとって、どんなに忌まわしいものか。だから、4年前も黙って身を引いた。今日だって、あのまま消えるつもりだった。だが・・・これじゃ、あまりにも自分が惨め過ぎる。」


「内藤さん・・・。」


「俺は・・・こんな端金を恵んでもらう為に、お前を探し求めてたんじゃない!」


そう言うと、内藤はさっきの封筒を、私の前に叩きつけた。