「責任って、何に対する・・・?」


戸惑いながら、尋ねる私に


「お前のお陰で、俺は仕事も何もかも失った。その責任をとれ。」


「おっしゃってる意味がわかりません。」


「お前が俺の前に現れなければ、お前があの日の約束通り、俺と一緒に人生を歩んでくれれば、俺はこんなことにならずに済んだんだ。」


「そんな・・・。」


さすがに、男のメチャクチャな言い分に、私は呆れてしまう。


「いい加減にして下さい。私はあなたに口説かれて、舞い上がった挙げ句、裏切ってしまった夫や2人の子供達に対してこそ、罪悪感を感じてますが、なんで、あなたに責任を感じる必要があるんですか?もし夫にあのことが知れれば、私達は共に制裁される立場じゃないですか!」


「じゃあ、一緒に制裁されるか。」


つぶやくように言った男の言葉に、私は信じられない思いで、男の顔を見る。


「お前の旦那に、全部ぶちまけようか。そしたら、お前ももう、貞淑な妻づらして、澄ました顔で、あの家には居座れまい。どうだ?」


「・・・。」


「キチンと旦那にケジメ付けて、一緒に人生やり直そうぜ。それとも俺に金でも払って、黙らせるか?」


その男の言葉を聞いた瞬間、私は思わず失笑していた。


「何がおかしい?」


詰問するように声を荒げる男に


「随分回りくどいことをするんですね。」


と嘲るように答える私。


「朱美・・・。」


「結局、お金なんでしょ?」


男の目的がはっきりして、私の心には余裕が出来る。職を失い、困窮した男が考えそうなことだ。


「それなら、相手を間違えましたね。私はサラリーマン家庭の専業主婦ですよ。自由になるお金なんて、たかが知れてると思いませんか?それともこれから順番に、昔の彼女をまわるんですか?」


私の言葉に、男は顔を真っ赤にしながらも、押し黙る。


「わかりました。大してお役には立てませんけど、口止め料お支払いします。だから、もう落ち着いて下さい。」


私はそう言うと、男に微笑を向けた。嘲りの笑み、だったかもしれない・・・。