「母さん、離婚届、出してないよな?」


「はぁ?」


「正司、お前、何言ってる・・・。」


長男の爆弾発言に、次男は呆気にとられ、隆司さんは、長男を問い詰めかけて、一転私に視線を向ける。


「母さん、マジなのかよ?」


と聞いて来た次男に


「うん・・・。」


と俯いたまま、頷く私。


「なんだよ、それ・・・。」


「朱美、一体どういうことなんだよ?」


次男は呆れ、夫は訳がわからんとばかりの声を出す。


「ごめんなさい。」


とまずは謝罪した私は、その後言い訳タイム。


「誤解しないで欲しいのは、最初からお芝居するつもりだったわけじゃ、決してなかったからね。あの時は、本当に悩んで、苦しんで・・・考えて考え抜いて、私から離婚を切り出した。そうすることが正しいと決心して、お父さんにも同意してもらった。清司、見てたよね。私が出て行く前の日、どんな様子で、あの届を書いてたか。あれがお芝居だったら、私、女優になれる。」


「まぁ・・・な。」


「そして、お父さんは次の日、仕事が早かったから、私が届を預かって、この家を出た。その日は、引越しの後始末とかに追われて、結局出しに行けなくて。次の日からは、仕事が始まって、バタバタして、あっと言う間に数日が過ぎちゃって・・・。」


「・・・。」


「夜1人でご飯食べながら、しみじみ考えちゃった。お父さんと結婚して、あんた達が生まれてから、私、ひとりぼっちの日は1日たりともなかったなって。お父さんが出張しても、あんた達がいたし、あんた達が部活の合宿に行ったって、2人同時にってことはなかったから。お父さんと2人の子供の顔を誰1人見ることなく、過ごした日なんて、本当になかったなぁ、なんて改めて考えた。そしたら、急に寂しくなって、やっぱり無理!って・・・。」


「お母さん・・・。」


そう呼ぶ夫の声に、明らかな呆れが感じられるのが辛い。


「その次の日、清司が泊まりに来た。なんか嬉しくて、ホッとして、明日このまま一緒に家に帰っちゃおうかななんて思っちゃって。でも、こんなことじゃダメだと思って、次の日、清司にお父さんに渡してって、結婚指輪を託そうとした。もう1回、これで踏ん切り付けようと思って。」


「あれ、そういう意味だったの?」


ようやく腑に落ちたと言った声の次男。