私が玄関を開けると、そこには長男と横には、綺麗なお嬢さんが。


「いらっしゃい、お待ちしてました。」


私がそう言うと


「初めまして、後藤彩乃(ごとうあやの)と申します。本日はお休みにも関わらず、お邪魔して申し訳ありません。」


緊張した表情のまま、そう言って、彩乃さんは頭を下げる。


「よくいらっしゃいました。さ、どうぞ。」


「うん、入ってよ、アヤちゃん。」


「はい、失礼します。」


私と長男に促されて、彩乃さんはまたペコリと頭を下げて、入って来る。


応接間なんて、大層なものはないけど、最近はあまり使わなくなってた来客用のソファにご案内する。すると


「あの、これ、よろしかったら皆さんで、お召し上がり下さい。」


と、なにやら菓子折りを差し出してくる彩乃さん。


「気を遣ってもらって、申し訳ありませんね。ありがとうございます、じゃ、とりあえずお掛けになって。」


まだまだ緊張のほぐれない彩乃さんに、笑顔で言う。随分昔のことだけど、私にも同じような経験があって、それは緊張したよ。


私がお茶を煎れに、キッチンに入ってる間、正司を間にはさんで、隆司さんと彩乃さんはぎこちない会話を交わしていたみたいだ。


「今日は、遠いところをありがとうね。お口に合うかどうか、わかりませんけど、召し上がってね。」


そこへ私が戻って、彩乃さんの緊張を少しでも解きほぐすように笑顔でお茶とケーキを出す。


「はい、ありがとうございます。」


だけど、彩乃さんの表情はまだ硬いまま。そして、私が隆司さんの横に座るのを待って、正司が口を開いた。


「電話でも話したけど、彩乃さんとは会社の同期入社で、部署は違うんだけど、仲良くしてもらってたんだ。」


「そうですか、正司がいつもお世話になってます。」


「いえ、私の方こそ、正司さんには、いろいろ気に掛けていただいております。それで・・・この度、正司さんと正式にお付き合いさせていただくことになりましたので、ご両親に一言ご挨拶したくて、お邪魔させていただきました。」


「ご丁寧にありがとう。コイツは就職して、家を出てからというもの、数えるくらいにしか連絡もよこさないようなガサツ者ですが、こんなのでよろしければ、是非、仲良くしてやって下さい。」


「とんでもないです、私の方こそ、よろしくお願いします。」


こうして、一通りの挨拶が済むと、座の雰囲気がようやく少し緩んだ。