翌朝、更衣室で一緒になった渋谷さんに


「でも、昨日はビックリしました。まさか西野課長・・・すみません、もう課長じゃないですね。西野さんにお会いするなんて、夢にも思ってませんでした。」


と声を掛けられた。


「前の会社に在職中は、本当にお世話になったんです。結婚式にも出ていただいて、今でも年賀状はやり取りさせていただいてるんですけど、すっかりご無沙汰してしまってたんで。」


そして、あの後、渋谷さんは彼と立ち話を少ししたそうだ。


「いろいろあって、成川さんとはいったん別れて、今は、再構築を目指して、改めてお付き合いをされてるとお聞きしました。」


「はい、お恥ずかしいんですけど。」


「いえ。長い間、一緒にいれば、いろいろありますよね。でも・・・西野さんは尊敬出来る方ですし、成川さんもまだ短いお付き合いですけど、素敵な方だと思ってますし。いい方向に向かわれるといいですね。応援してます。」


「ありがとうございます。」


笑顔でそう言ってくれた渋谷さんに、私も笑顔で頭を下げ、私達は売場に向かった。


だけど・・・渋谷さんはあの言葉の意味を説明してはくれなかった。


『やっぱり、そうだったんだ・・・。』


隆司さんの顔を見て、ポツンと彼女が残した一言。あるいは渋谷さんは、私に聞こえたとは思ってないのかもしれない。


会社の役職に就いてから久しい隆司さんは、何人もの部下や同僚の結婚式に招待され、またその方達と交流や年賀状のやり取りを続けていることは、知っているが、私は妻として、それに関与することを求めることも求められることもなかったから、ほとんどの方を存じ上げない。


渋谷さん本人にはもちろん、渋谷さんの旦那さんにも1度も会ったこともない。だけど、渋谷さんは私のことを知っていた・・・彼女のその呟きは、そういう意味にしか取れない。


なぜ、渋谷さんは私のことを・・・私の心のモヤモヤは、解消されてはいなかった。