1時間程走って、私達は、近くの山の展望スポットに降り立った。


7月も後半に入って、夏の陽は長い。だいぶ傾いては来てるけど、沈むまでには、まだ少し時間が掛かりそう。


「お腹空いてない?」


「大丈夫。」


「じゃ、陽が沈むまで待つか。」


「うん。」


そう言って、私達は目の前に広がる景色に目をやる。


「なぁ。」


少し経って、隆司さんの声がする。


「なに?」


振り向いた私に


「念の為、言っとくけど・・・。」


と切り出した隆司さんは、やや言いづらそうにしてたけど


「彼女じゃないから。」


「えっ?」


「その・・・俺が間違いを犯した時の相手。」


バツ悪そうにそう言うと、隆司さんは少し俯いた。


「わかってる。」


「えっ?」


「さっきの話が嘘じゃないなら、時期が合わないし。」


「嘘じゃないよ。」


「それに、いくらなんでも、そんな関係だった人と今でも年賀状やり取りするほど、バカじゃないでしょ。」


ちょっと私のきつい言い回しに、隆司さんは息を呑んだよう表情になる。


「疑った?」


「ちょっとね。」


「ごめん。」


「なんで謝るの?意味分かんない。」


そう言った私の口調は、ちょっと冷たかったかもしれない。


会話が途切れる。しばらく私達は、沈み行く太陽を見つめていた。


「朱美。」


いよいよ、陽が地平線に沈んで行こうかという頃、私を呼ぶ隆司さんの声が。でも


「きれい・・・。」


見たかった景色に、目を奪われる私。それを見て、隆司さんも前に視線を戻す。


しばし、沈み行く夕陽を一緒に眺めていた私達。やがてその姿が見えなくなると


「朱美。」


改めて呼び掛けて来る隆司さん。私も今度は振り向くと、それと同時に携帯の着信音が。見れば店長からで


「ちょっと、ごめんね。」


と私は携帯に出る。さっきからタイミングが悪く、隆司さんは気勢を削がれた感じで、不満げな表情を浮かべるが、私はそんな彼の様子には気付かない。


店長との電話は、意外と長引いてしまい、5分近く喋ってしまい、切ったあと


「ごめんね、いろいろあって。で、なに?」


と聞いたんだけど


「もういいよ。腹減ったから、行こう。」


と言って、隆司さんは歩き出す。なんか、電話が長くて、気分を害したみたいだけど


(仕方ないじゃない、仕事の話なんだから。)


私も面白くなくて、わざと、少し遅れて歩き出した。


もっとも、子供じゃないんだから、車に乗り込んでからは、まぁ普通に会話して、お夕飯も一緒に食べて


「今日はありがとう、またね。おやすみ。」


って、いつものようにチュッをして、サヨナラしたけど、ね・・・。