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 目を開けると、すっかり馴染みのある部屋が目に映る。でも、いつもと違って、誰もいなかった。いつもは二、三人出迎えが立っている。

 たいていは晃と火恋だけど、たまに二人が用事があって侍女が出迎えてくれることもあった。

「何で誰もいないんだ?」
 首を捻ると、あっけらかんとした声が後ろから聞こえた。
「そりゃそうさ。連絡してないからね」
 マルが闇の沼のような穴から現れて、眼鏡をくいっと押し込んだ。

「マル、お前連絡入れてないの?」
「入れてないよ」
 驚きすぎて声が裏返った僕に、きっぱりとマルは返した。

「いや。普通一報くらい入れるだろ。友達の家に遊びに行くわけじゃないんだぞ」
「レテラ、忘れた? 僕だって一応王族だよ。それにここは僕の実家でもあるんだから。実家帰るのに連絡なんていらないだろ」
「お前、絶対それ後付だろ」
「バレた?」

 マルはべえっと舌を出す。

「どうせ、王から許可貰ったから嬉しくてその足で着ちゃっただけだろ?」
「レテラは僕のことよく分かってるね。善は急げって言うだろ」
「マルは他国であっても直で行っちゃいそうだからな。実験のこととなると」
「まあ、行っちゃうだろうね」

 平然と言って、マルは肩を竦める。

「だいたい、王族とか貴族とかは実家帰るのだってまず一報入れるだろ」
「そんなのルクゥ国だけじゃない?」
「いいや。残念ながら全世界共通だよ。アイシャさんたちに直接リポートしたんだから、間違いない。ちなみに条国でもそうだからな」
「レテラは細かいなぁ。モテないぞ、そんなんじゃ」

 マルは嫌そうな顔をしてから、からかうようににっと笑って僕を指差した。

「あっ。分かった。だから恋人出来ないんだろ?」
「うるさいな」
 お前だっていないだろ。

「マルは全然恋愛に興味なさそうだよな」
「まあね。僕にとっては無駄だよ」