「び?」
いつものように、響子が慌て始める。
1番バッターは気の毒だとは思うけど、響子はなにやらブツブツと唱え出した。
耳をすませてよく聞くと__。
「びあ、びい、びう、びえ、びお」
小さい声で呟いている。
【あ】から【ん】まで、とりあえず一つずつ言葉をくっつけてるんだ。
地味だけど、確実な戦法だった。
「びた、びち、びつ」
た行まで終わった。
どこかで引っかかることを願うしかない。
「びな、びに、びに?」
ハッと顔を上げた響子は「ビニール?」と口にし、近場の机の中を漁り出す。
けど、すぐにその手が止まった。
「あっ」と、私の顔を見る。
それだけで思いが通じあった。
響子が思いついた『ビニール』は【る】で終わる。
それは私に向かっての死刑宣告に等しい。賢太ならまだしも、そんな嫌がらせすることはないだろう。
「びぬ、びね、びの」とまた、あの呪文が始まった。
時間は確実に減っていく。
とうとう「びん」とボソッと呟き、肩を落とす。
「響子、私ならいいよ。遠慮しなくてもいいから」
「えっ?」
「大丈夫だから」
そう、大丈夫なんだ。
だって私は【る】から始まるものを、もう見つけてあるから。