ぐしゃ。


肉が潰れる音が聞こえた__のは気のせいで、実際はバールがぐにゃりと曲がった。


床にバールを叩きつけた悠馬は、工具箱の中を漁り出す。


ドライバーにペンチ、金づちを放り投げ【る】から始まる物を探してるんだ。


「くそっ!」


そう吐き捨てると、悠馬は技術室を出て行った。


私たちも慌てて追いかける。


技術室を出る寸前、中を振り返ると、命拾いをした賢太が立ち上がったところで__その顔は苦痛に歪むことなく、微笑みを浮かべていた。


やっぱり、賢太は最初から【る】で終わらせる気だったんだ。


悠馬に、復讐するために。


「くそったれが!」


怒鳴り声とともに、なにかが壊れる派手な音がする。


恐る恐る覗くと、悠馬が将棋盤を叩き壊していた。


囲碁の碁石を窓に放り投げ、椅子やら机を蹴飛ばしている。


部屋の中は、竜巻が吹き荒れた後みたいだ。


「悠馬、落ち着け」


新田くんの言葉も耳には届かない様子で、悠馬は暴れ倒している。


時間はもうない。


残り2分くらいか。


そのとき、賢太がやってきた。


「本当に悪気はなかったんだ。信じてほしい。君に死んでほしいなんて思ったことはないよ」


そう言って、にんまりと笑う。


悠馬が殺されるのが、楽しみで仕方がないという風に。