「明香?明香!」


私は何度も何度も、明香の名前を呼んだ。


涙が流れても、ずっと明香の名を呼び続けたんだ__。












__えっ?


私は、自分の手のひらを見下ろした。


血が、ついてない。


今もまだ、明香の血の温もりを感じているのに?


血の匂いも鼻をつくけど、そもそも私は、明香を抱いていない。


ちゃんと椅子に座っているし、机には数学の教科書が置いてある。


確か__しりとりゲームの前、私は数学の授業を受けていた。


ゲームから戻ってきたんだ。


現実の世界に。


顔を上げながら頬に触れると、涙で濡れていた。やっぱり私は、泣いていたんだ。


明香が殺されて、血まみれになって__でも、制服も血で汚れていない。


「ひっ!」


突然、動物の鳴き声に似た声が上がり、みんなが振り返る。


「どうした?村井、変な夢でも見てたのか?」


先生に尋ねられた響子は、汗をびっしょりとかいて教室内を不安げに見回している。


響子も今、目が覚めたのだろう。


「な、なんでもないです」と消え入りそうに言うと、ところどころで笑いが起きる。


みんなの笑い声が聞こえる。


笑って、いいんだ。


笑えるんだ。


だって、明香は死んでいないから。