溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜


足音を立てないよう抜き足差し足でリビングを覗くと、博人はノートパソコンを広げて電話中だった。


「十年前に世に出てきたアイフォンが、今ではなくてはならないものになっているように、変化のスピードはより一層増していくと言われているんだ」


相手は部下だろうか。決して威圧的ではないが、熱い口調で語る。


「価値のある都市を創っていけるビルドポートだからこそ、いろんな環境変化に適応していける組織であり続けなければならない。だから……」


顔こそ見えないが真剣な様子を背中から感じ、邪魔をしてはいけないと、美華は静かに螺旋階段を上がりベッドルームに入った。

さて、なにをしていようかと持て余した時間の穴埋め方法を考える。

(そろそろ新作の構想も練らなきゃならないし、インプットでもしようかな)

美華の部屋として用意してもらった隣の部屋から、アートや風景の写真集を持ってきてベッドに座った。想像以上に心地のいいスプリングだったため、誘われるように横になる。
自分のベッドとは質が違う。