溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜


言葉が喉に詰まって出てこない。
博人という人間はいったいなんなのか。

美華が戸惑う様子を見て、さらに彼が笑う。


「それで腹だけど、もちろん減ってる」
「あ、じゃあ、家から持ってきたものがあるんですけど」


実家での最後の晩餐はハンバーグ。子どもの頃から誕生日やお祝いごとのメニューは、決まってそれだった。

今夜は仕事で遅くなると言っていた博人の分も、念のために作って持参したのだ。もしも必要なければ、後で自分が食べてもいいからと。


「お。なになに。うれしいね」


博人は顔をパッと輝かせ、美華の背中を押して階下へ向かう。
美華は、先ほど夜景に目を奪われ、リビングの窓辺に置き去りのままになっていた小さな手提げバッグからタッパーを取り出した。


「ハンバーグなんですけど、よかったらどうですか?」
「いいね。ハンバーグは大好物だ」
「ほんとですか? 私もなんです。では温めますね」


なんだかうれしくなり、ウキウキ気分でキッチンへ向かう美華を博人が追いかけた。