性急さに、正隆もさすがに躊躇する。
「善は急げといいますから」
「そうよ、お父さん。気持ちが変わらないうちがいいわ」
俄然乗り気なのは弥生だ。
その言いっぷりだと、まるで正体がばれたらそっぽを向かれるみたいだ。
それを見越して、美華はすでに自分をさらけ出してある。
結局、弥生と博人に説得され、正隆も「わかりました」と縦に深く頭を振った。
続いて名前を書いた美華は、手が小刻みに震えて字が歪む始末だ。この紙一枚で人生が変わるのだから当然だろう。
「それともうひとつお願いがあります」
美華と正隆のサインをもらった婚姻届をしまい、博人がもう一度居住まいを正す。
なんだろうかと、美華もその横顔を見た。
「美華さんと早速一緒に暮らそうと考えております」
「はい!?」
驚く美華をよそに、博人が続ける。



