チュンという鳥のさえずりで目覚めたのは、いったいいつぶりだろう。
ベッドサイドに置いた時計は、まだ七時前。驚くほどに目覚めがいい。

あまりにも目まぐるしかった昨日の出来事は夢かと錯覚したが、壁の衣紋かけに吊るされた桜色の着物が〝現実よ〟と美華に言っている。

普段は遅くまで執筆しているため、寝るのは午前二時過ぎがざら。ところが昨日は、そうはいかなかった。

お見合いもどきが予想外の結末を迎え、帰宅して両親に事の顛末を話してお風呂に入った直後、ベッドに吸い込まれるようにして眠りに着いたのだ。

眠りが深かったためか、一日慣れない着物を着て初対面の人と一緒にいたというのに、それほど疲れた感覚はない。

昨夜遅く帰宅した美華に、正隆はまず『悪かったな』と詫びた。満を持して紹介しようとした部下に仕事が入るとは想定外だったと。
出版社勤めで忙しいのは、正隆を見てきた美華もよく知っているからどうということはない。

正隆は、意気込んで行った場に彼が現れないショックで、美華が遅くまで街をふらついていたのかと心配していたそうだ。

両親に、『実は……』と博人との一連の話を聞かせると、ふたりはしばらく時が止まったかのように固まってしまった。