溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜


「ま、いいわ。今回は特別よ」


そう言うと、女性は美華たちをひとつだけ空いていたテーブルへ案内した。


「ちょうどキャンセルが入ったの。ラッキーだったわね」
「さすが俺だな。そういうツキは昔からあるんだ」
「はいはい。それじゃ、注文が決まったら呼んでちょうだい」


美華にも笑顔を向けて、彼女は身を翻した。
とても親密そうなふたりだ。

(女の人を簡単に呼び捨てにしないって言ってなかった?)

それなのにそうするということは、かなり親しい間柄なのかもしれない。
出会って数時間とはいえ、プロポーズされた身としてはちょっと複雑な気分だ。


「美華? どうかしたのか?」


メニュー表を広げた博人が美華の顔を覗き込む。


「あ、いえ。このお店は?」


慌てて取り澄ます。