溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜


そう言われると、なんだか癪だ。
自分で言う分にはいいが、他人から言われると釈然としない。


「おしとやかで上品な女性だからいいってわけじゃない。さっきから言ってるだろう? インスピレーションだよ。同じ結婚なら、それが働いた相手のほうがいい」
「で、ですが、うちは一般的な家庭なんです。納豆にお味噌汁だけの地味な朝食だし、一ヶ月のうちにカレーが三回も食卓に出るんです。そんな家庭で育った私と、社長のあなたが結婚なんてどう考えたっておかしいと思います」
「残念ながら、納豆もカレーも大好物なんだ。毎日でもいける」


全然堪えていないらしい。あっさりと返され面食らう。


「そ、それはあくまでもたとえであって、ゴージャスな暮らしとは程遠いって言いたいんです」
「俺は贅沢な生活はしてないぞ。ごくごく普通だ」


話が一向にまとまらない。どこまでも続く線路のように、このままずっと平行線なのではないだろうか。

見つめ合ったまま時間が流れる。

断ろうと思って臨んだお見合いで相手を間違えたうえ、その人から結婚しようと言われる未来を誰が想像しただろう。