「そこがわからないんです。今日は諦めモードだったみたいですけど、あなたも結婚するつもりはなかったって。それなのにどうして急にノリノリになるんですか?」
「キミを気に入ったから」
「なっ……」
博人が優しく笑う。恋人に向けるような甘さまで秘めているから、たちが悪い。
あまりにもサラッと言っているが重大発言だ。
美華の開いた唇がわななく。気に入ったなどと言われ、不本意にも鼓動が弾んだ。
そんな甘い言葉を言われたのが人生初のせいだろう。
(でもでも、ここで絆されたらダメよ。あまりにも軽すぎるし、言い慣れているのが丸わかりだし。私にだけじゃなくて、ほかにも同じように言っている女性がいるだろうから)
いろいろと引き合いに出して、動揺を抑えようと試みる。
「会ってからまだ一時間も経っていないのに、気に入るもなにもないと思います」
ドキッとしたのだけは隠したくて、なんとかそう返した。
ところが、博人はそれで黙るような男ではないらしい。



